リミテッドアニメイションで誇大妄想

Posted on 2012年5月17日

リミテッドアニメイション(Limited animation)というものがある。

これはアニメイションの表現手法の一つであり、簡略化された抽象的な動作を表現するために、キャラクタアの動きなどを簡略化、コマに対する画の枚数を減らす手法だ。ディズニーアニメイションスタジオでレイアウト設計などを担当していたジョン・ハブリー(John Hubley)がソビエトアニメの創始者といわれるイワン・イワノフ=ワノ (Ivan Ivanov-Vano) 監督のアニメ作品に感銘を受け、ディズニーを退社、独立後に仲間と共に開発したといわれている。最初は実験的な作品が多かったそうだが、1940年代ごろから”Brotherhood of Man”など本格的なリミテッドアニメイションの制作がスタートした。

(「Brotherhood of Man」 1946年)

それまでのディズニーアニメイションに代表されるような、写実的で滑らかな動きのアニメイションとは一線を画するものでしたが、平面的な空間設計、シンボリッ クな背景・動きが高く評価され、アニメイションの表現手法として地位を獲得していったらしい。実際、彼の方法論は多くのアニメイションスタジオにも受け 入れられ、1955年以降、ジョン・ハブリーは『近視のマグー』シリーズなどでアカデミー短編アニメイション部門を受賞した。

John Hubry
アカデミー賞短編アニメイション部門を受賞した際(右端)

その後、リミテッドアニメイションは日本にも輸入され、主にコストカットを目的として積極的に採用されるようになった。特に手塚治虫はリミテッドアニメイション以外にも、同じ動画を異なる背景の中で動かすバンクシステムをいち早く導入し、テレビアニメイション制作のタイトなスケジュールをどうにか乗り切 る術を生み出し続けたようだ。当時はコストカットを目的として採用されていたリミテッドアニメイションですが、今日ではこれを逆手にとり、効果的な演出 手法として用いられることも多くなりました。


(「妄想代理人」 2004年)


(「livetune adding 中島 愛「Transfer」Music Video」2012年)

まさに逆転の発想だ。年間200本近くのアニメ作品が制作されている日本では、今後もこのような効果的な演出手法は洗練されていくのではないだろうか。

と、 ここまでアニメイション表現の変遷について大変乱暴に概観したわけだが、こうしてみるとその変遷はまさに「複雑なものの単純化」への道のりだったと言える。言い換えれば、どの程度まで動きや文脈を単純化すると、ぼくたちはアニメイションをアニメイションとして認識できなくなるの か、その瀬戸際をアニメーターたちが創意工夫しながら見極めてきた過程として見ることができると思うのだ。

長編アニメイションの先駆者で あるウォルト・ディズニーは1秒24コマの滑らかな動きやフルアニメイション、肌の質感をリアルにするために絵の具の上からさらに化粧を塗るという徹底的な画作りにこだわりった。もちろん、そこから視聴者が体験できるものはとても大きいし、だからこそ今日でも多くの人から愛され続けているのだと思う。けれど、その一方で、ジョン・ハブリーのような”構造の分解”と”必要要素の再構成”を前提とした作品はアニメイションとしても一流だし、ヒトの認知機能の根幹へと想いを導いてくれるフックとなる。

翻って実際のヒト認知研究を見渡してみれば、錯視やbiological- motion, 不気味の谷などの物理的な視覚認知からtheory-of-mindのような社会認知にいたるまで、実に広範にわたって「ヒトはどのように世界を認知して いるのか」という研究が行われている。そのほとんどが今だ途上であり、ますますの研究が必要だが、実はアニメイションというまったく別の文脈でもヒト の認知について考え、文字通りまったくの白紙から作品が作られてきた経緯があった、そのことがぼくにはとても面白く思えて仕方ない。

これはアニメイションに限った話ではない。たとえばUI開発についても、きっと同様のことが言えるだろう。いかに分かりやすく情報を伝えるか、そこを理解するには、やはりヒトの認知機能の本質を知っていることに越したことはない。「裏切りセオリーに基づく不思議系PV」だって同じだ。

ヒトの認知機能に想いを馳せるとモノの見方がもっと面白くなる。

そういった確信めいた予測をアニメイションはもたらしてくれる気がする。

その予測が正しいものかどうか見極めるためにも、フミトリさんに白い目で見られながら今夜もアニメを鑑賞しようと思う。

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